虚実混交 〜色川武大と阿佐田哲也
阿佐田哲也をご存じない方もいるかもしれませんが、角川映画の「麻雀放浪記」の原作者だといえばわかる方も多いでしょう。
最近では講談社の少年マガジン上で「勝負師伝説 哲也 〜雀聖と呼ばれた男〜」が
原案:さいふうめい氏、漫画:星野泰視氏のコンビによって連載されています。
実は阿佐田哲也氏は本名の色川武大という名前でも小説を書いています。つまり、
二つの名前を持つ男なのでした。
さらに最近、「井上志摩夫」名での作品があいついで本になり、とうとう
「3つの名前を持つ男」となってしまいました。
阿佐田哲也といえば「雀聖」と呼ばれるだけあって「麻雀」というイメージしか
わかない人も多いでしょうが、麻雀以外を題材にした小説も多数書いています。
また、麻雀を題材にした小説でも麻雀の技術的内容というよりは、麻雀を通して
人間の心理を描いたものが多く、「麻雀のことはちっとも知らない」という人が
読んでも何ら問題はありません。
色川武大名では純文学的な作品を多く残しています。
井上志摩夫名では時代小説を書いています。井上志摩夫名での執筆は
昭和30年代前半におこなわれているようで、あまり多くの作品は
知られていません。
阿佐田哲也/色川武大の多くの小説に共通する因子は「アウトロウの世界」それも
「人と同じように生きようとしてできなかった人たちのアウトロウの世界」だと
思います。そんな世界を垣間見てみたい方、ひとつ読んでみてはどうですか?
- 阿佐田哲也(あさだてつや)
色川 武大(いろかわぶだい または いろかわたけひろ)
井上志摩夫(いのうえしまお)
- 1929(昭和4)年3月28日東京生れ。
- 本名 色川武大(いろかわたけひろ)。
- 東京市立第三中学中退。
- 14〜15歳より麻雀を始め、賭場などを放浪する。
- 昭和28年、アウトロウの世界より引退。雑誌編集等を経て文筆
活動に入り、阿佐田哲也の筆名による「麻雀放浪記」が若い
読者の圧倒的人気を得て脚光を浴びる。
- いとこの孝子さんと結婚、20年間で10回の引越。
- 難病のナルコレプシー(眠り病)に悩まされる。
- 博打、映画、芸能、ジャズなどに精通。
- 幅広い交友関係を元にした著書も多数。
- 1989(平成元)年4月3日岩手県一関市で心筋梗塞で倒れ
一週間後、入院先の宮城県の病院にて死去。享年60歳。
- 1961(昭和36)年 「黒い布」で中央公論新人賞を受賞
- 1977(昭和52)年 「怪しい来客簿」で第5回泉鏡花文学賞を受賞
- 1978(昭和53)年 「離婚」で第79回直木賞を受賞
- 1982(昭和57)年 「百」で川端康成文学賞を受賞
- 1989(平成元)年 「狂人日記」で読売文学賞を受賞
- 筆名の「阿佐田哲也」は「あさだてつや」「朝だ、徹夜」より
きている。
「色川武大」は本名だが、出版社によってふりがなが
「いろかわたけひろ」と「いろかわぶだい」とにわかれて
いる。「ぶだい」のほうはペンネームで、色川氏が特注で
作らせたという原稿用紙の左下隅にも「BUDAI」と
ネームが入れられている。
井上志摩夫については由来不明。